「一菓流」和菓子展回顧録~一菓流菓道宗家・三堀純一氏の挑戦

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日時:2019年5月11日―6月2日(毎週土曜日・日曜日)

場所:上海市・懺園7号 ほか

イベント内容:「一菓流」和菓子展


千匠文化は、2019年5月11日から6月2日まで「和菓子司いづみや」とコラボし、4会場で「一菓流」和菓子展を開催しました。

今回の催しでは、一菓流菓道宗家にして和菓子司いづみや三代目当主、日本スィーツ協会の理事を務める三堀純一氏の全面協力のもと、

世界へ和菓子の素晴らしさを発信することができました。

 

四方を山に囲まれた軍港の街、現在はアメリカ軍の駐屯地として知られる神奈川県横須賀市。

「和菓子司いづみや」は、アメリカの雰囲気漂うこの街で1954年に誕生しました。

創業者は現当主の祖父に当たる三堀文男氏で、当時の屋号は「いづみや」。

現在の屋号「和菓子司いづみや」は、現当主の父に当たる三堀晟氏が名づけたものです。

「いづみや」は、饅頭やどら焼きから長崎銘菓のカステラに至るまで、あらゆる和菓子に造詣が深く、地元の人々からの信頼を積み重ねていきました。

 

「和菓子司いづみや」が現当主の三堀純一氏にバトンタッチされたのは、2003年のことです。

純一氏は、祖父の代から続く伝統を守りつつ、和菓子作りを普通のお菓子づくりから芸術に昇華させようと試みました。

日本には、茶道、書道、華道など数多くの優れた芸術文化が存在しますが、純一氏はおもてなしの心を以て和菓子を創作し振舞う、

「菓道」を提唱しています。

これは、和菓子の「煉切造形」を、ちょうど日本の「茶道」のように、「実際に目の前で作られた和菓子を召し上がっていただく」

ひとつの芸術作品へと仕上げたものです。

和菓子作りがただの「製造」から「創作」へと進化を遂げた瞬間でした。

三堀純一氏は1974年、神奈川県横須賀市にて生を受けました。

5歳の頃から和菓子に親しみ、8歳の時には既に次期当主としてお菓子作りに励んでいた純一氏は、10歳にして自身の創作菓子を完成させるまでになりました。

純一氏の父、三堀晟氏は常々「自分が屋号を背負っていることを忘れるな。お客様へは誠心誠意を以て接せよ」と説いていたそうです。

その精神は後の和菓子創作、そして一菓流菓道に大きな影響を与えました。

意外なことに、純一氏はそのまま家業を継いだ訳ではありません。

純一氏は当初音楽活動にのめりこみ、ライブ活動なども行っていたのです。

2003年に家業を受け継ぐまで、その活動は続いたと言います。

一見和菓子とは無関係な時代を過ごしたように見えますが、この時培った芸術的センスが、後の和菓子創作、そして「菓道」開祖に繋がっていくのです。

26歳の時、純一氏はアメリカで和菓子作りを披露し、大きな賞賛を受けました。

この時彼は、自身が「和菓子職人」としてではなく、「芸術家」として認識されていることに気づきます。

そして彼は悟りました。和菓子制作のプロセスは、その全てが芸術であることに。

それからというもの、彼は四季折々の風景を注意深く観察するようになります。

自然の中から得られた着想を目の前で具現化するために、和菓子の原材料選びからフルーツの選択、使用する道具、

和菓子の造形に至るまで全てのプロセスにこだわり抜き、和菓子の創作をより高みに引き上げる努力を続けたのです。

純一氏の和菓子作りに転機が訪れたのは、2010年のことでした。

テレビ東京の人気番組「TVチャンピオンR」の「和洋菓子職人選手権」にて、見事優勝を飾ったのです。

これを機に、世間の「和菓子司いづみや」への、そして純一氏への注目が一気に高まり、様々なメディアで取り上げられることとなります。

横須賀の小さな和菓子司は、今や日本中から注目を集める存在となったのです。

ここから、純一氏の和菓子作りは更なる次元へと進んでいくのです。

変革への道のりは、決して平らなものではありません。

伝統に基づいた現代的美を追求する必要がある一方で、伝統を打ち破る新たな方向性を探らねばならないからです。

三堀純一氏は、そのヒントを「自然」に求めました。

 

一般的な和菓子は、一般人から見るとどれも変わらないものに見えます。

しかし純一氏の目には、それぞれの和菓子がそれぞれの輝きを持っているように映るのです。

この視点こそが、その瞬間にしか存在しない唯一無二の和菓子を制作するために必要なものだったのです。

それぞれの魅力をより輝かせるために、最も適した業物で和菓子を形作り、フルーツをカットし、芸術品として整えていくのです。

テレビ出演の成功は、「菓道家」三堀純一を誕生させました。

純一氏の制作した和菓子は中国やフランス、アメリカ、カナダで紹介され、世界中に発信されていきます。

そして2016年、純一氏はついに世界初の菓道「一菓流」を確立させるに至るのです。

「菓道」の精神は、茶道と同じく「客人への気配りともてなしの心」にあります。究極のリラックス空間を形作ることによる自分との対話、そして感覚の共有。本来茶道を構成する一パーツに過ぎなかった(それでも重要な茶道の一部であることに変わりはありませんが)和菓子が、主役の座に据えられたのです。

和菓子には、四季折々の「花鳥風月」が内包されています。和菓子の美しさ、匂い、触感、食感、そしてゆっくりと味わわれた甘い和菓子が喉元を過ぎた後の至福の余韻。その全てが芸術であり、一菓流菓道宗家・三堀純一氏が創り出した世界なのです。

現在、純一氏は「菓道」の普及と後進の育成に力を注いでいます。今回千匠文化と提携して開催した「一菓流」和菓子展もその一環です。世界中の和の心を受け継いだ職人たち、いや芸術家たちは、この新しく生まれた素晴らしい日本の伝統文化を受け継ぎ、発展させていくことでしょう。

今年5月から6月にかけて上海市で開催された「一菓流」和菓子展は、たいへんな衝撃をもって迎えられ、大成功のうちに幕を閉じました。最後に、「一菓流」和菓子展の模様を振り返りながら、展示会の舞台となったアトリエを皆様へご紹介したいと思います。

懺園7号会場(上海市徐汇区建国西路506弄懿园7号、5月11日・12日開催)

 

多くの外国人が行き来するフランス租界の一角にある会場です。巨大都市の中心部に位置していますが、周囲は緑に囲まれており、夏の暑い日差しも涼しく感じられるほど閑静な場所です。まさに、芸術を語るのにふざわしい会場と言えるでしょう。

IHALF物色东西生活塾会場(上海徐汇区淮海中路1285弄29号、5月18日・19日開催)

IHALF物色东西生活塾会場は地下鉄1号線常熟路付近の、住宅地の中にあります。気品あふれるこの洋館は、一階がカフェ、二階が展示スペースとなっており、三階にはなんと日本の茶室が用意されています。ここでは、茶道の専門家である北見先生より、茶道を学ぶことができます。

稲城書店会場(上海市长宁区延安西路1262号上生新所18栋、5月25日・26日開催)

上海市を東西に延びる延安西路にたたずむ、趣ある書店です。映画「君のいる世界から僕は歩き出す」

の舞台となったことでも知られています。

軽食を楽しみながら優雅な午後の時間を過ごすには、最適の場所と言えるでしょう。

美食図書館会場(上海市徐汇区天平路326号3楼、6月1日、2日開催)

地下鉄1号線徐家滙駅を降りてすぐ、徐家滙公園のすぐ近くにたたずむ古い洋館です。

「美食図書館」の名前は伊達ではなく、ここの軽食は大変美味です。

食もまた芸術のうち、芸術の秋となるこれからの季節に、是非一度訪れたい場所です。